ハートフル講話録


講師:金子 兜太さん(現代俳句協会名誉会長)

08/07/21

「荒凡夫・一茶」

(下旬) 「生き物感覚」あっての本能、そして自由



 「蚤(のみ)どもが さぞ夜永(よなが)だろ 淋しかろ」


日本人を代表する心は、この句にある。


そしてこの句は仏教の影響から生まれたと書いてあります。


その仏教とは浄土真宗のことを指しているんですが、ブライス氏自身は禅宗でした。


禅の影響だと書きたくても、実際はそうでないことを知っていましたから、書けません。


そこで、仏教という漠然とした表現にしているんですね。



 これは書いてあることを読めば、よくわかります。


日本を愛していたからこそ、わかるんですね。


そして私は浄土真宗の、特に庶民の心に及ぼす影響の大きさを改めて承知した次第でした。


一茶と浄土真宗の結びつきをもっと勉強しなきゃならないと思っています。



 それからもう一つ、人間関係にもその生き物感覚、アニミストの感覚がはたらいています。


一茶の句の中には、屁などのびろうな言葉も出てきますが、彼の場合はほとんど汚くないんです。


今でもそういう言葉を使う人はいますが、みんな薄汚い句が多いです。



 でも、一茶の句には、こういう言葉を使っても薄汚い句は一つもない。


むしろ、どれもいのちを感じますし、親しみを覚えます。


これが一茶の天性ですね。



 15歳まで田舎で農業をやって土に親しんだということも関係していると思います。


それから、お父さんが熱心な浄土真宗の信者だったということも影響しているんでしょうね。


そのようにして、彼の生涯を一貫して「生き物感覚」が存在していた訳です。



 これがあるから


「煩悩具足、五欲兼備の男」


がそのまま自由に生きても、人さまの害になるようなことはしないんです。



 自分の欲はしっかりとある。


本能のままに従って、その自由さは担保しておきながら、人には絶対に迷惑をかけない。


この本物で生きていくということが、非常に大事なことだと思います。



 だから、自由というのはそういうものでなければならないということを、私は一茶を介して各所で話して歩いています。



 本能はいけないと言って、あんまり抑制するのは良くないんです。


必ず何か事件が起ります。


多少の欲は認めてやらないとダメなんですよ。


その本能の欲は解放しなきゃなりません。


その解放の仕方の中に、アニミストとしての心構えが必要になってきます。



 いいえ、心構えといったらダメなんですね。


もうそんな道徳的な言い方をするもんじゃないんです。


「おのずからなる」。


そういうものでないといけないんです。



 生き物感覚あっての本能、生き物感覚あっての自由であると私は思います。


これが俳人・小林一茶から、私が勉強していることでございます。



(次の記事はありません)
[3] 前の記事へ

金子 兜太さん(現代俳句協会名誉会長)



☆ 演題

「荒凡夫・一茶」



大正8年埼玉県生まれ。



高校在学中に俳句を始め、加藤楸邨(かとうしゅうそん)に師事。



昭和18年、東京大学経済学部を卒業して日本銀行に入行、定年まで勤務されました。



昭和30年に第一句集「少年」を発表。



中国との俳句交流に力を尽くし、現在、現代俳句協会名誉会長、日本芸術院会員、「朝日俳壇」選者をお務めです。



「金子兜太集」(全4巻、筑摩書房)ほか著作多数。



桜島にある「溶岩なぎさ遊歩道」に句碑があります。




☆来月の講師

根來泰周さん(弁護士)



☆ 演題

「危うい未来」



根來さんは、浄土真宗の僧侶でありながら、法曹界、プロ野球コミッショナー、公正取引委員会とさまざまな分野の経験をお持ちです。



昭和7年、和歌山県生まれ。



教徒大学法学部を卒業後、法曹への道を選び、昭和33年4月に札幌地方検察庁検事に任官。

以後、法務省刑事局長などを経て、公正取引委員会委員長に就任。

平成14年に定年を迎え退官の後、弁護士となられました。



平成17年に日本プロ野球コミッショナーに就任。

平成19年1月に任期満了を迎えて退任されましたが、その後も「コミッショナー代行」の任に。



和歌山市の浄土真宗本願寺派玄妙寺住職であられると共に、京都の西本願寺で監正局長をお務になっておられます。



ページ先頭へ戻る

ハートフル大学とは、本願寺鹿児島別院で毎月1回開催する仏教と文化をテーマにした市民大学で、毎回全国よりすばらしい講師をお招きする有意義な講座です。ハートフル大学についてのお問い合わせは、本願寺鹿児島別院(099-222-0051)までどうぞ。


[0] トップページへ
[1] バックナンバー